ミヤマ カヨコ Linernotes
<CD『OBIYABIYA』ライナーノーツより>
2008年11月都内某所で
美山夏蓉子、安田芙充央、冨谷正博(ローヴィング・スピリッツ)の3人が顔を合わせた。
冨谷
「これはビジネスとしてのCD作りを真っ向から否定したCDだね。」
安田
「否定以前に、考えてない。」
美山
「うん、考えてない。とにかく作っておかないとまずいと思って作った。」
冨谷
「でも作った以上は聴いてもらいたい。で、聴いてもらうためには売らなきゃいけな いじゃない。」
安田
「そうですよね。」
冨谷
「少しでも売ろうと思ったら、今ならまだライブやればいいけれど、
このCDの音楽は ライブではできないから、そこでは売れない。
それでもこういう音楽はやっぱり残さないといけないと思ったのよ。」
このCDの音楽は ライブではできないから、そこでは売れない。
それでもこういう音楽はやっぱり残さないといけないと思ったのよ。」
安田
「そういう意味においちゃ、もう果敢な挑戦ということになりますね。」
美山
「果敢と言うか、無謀というか。」
安田
「冨谷さんが無謀な挑戦、でしょ。」
美山「あ、そうだよね。」
安田
「いや、これはもうすごい作品ですよ。
美山夏蓉子っていうミュージシャンにしても ね、ジャズを足場にして、ここで大分外れてきて、そういうところでこういう人に 巡り合うっていうのは大きいですよね。
この作品もそうだけれど、美山さん自身が ね。
その意味では濃いですね。迎合の跡はどこにもない。」
美山夏蓉子っていうミュージシャンにしても ね、ジャズを足場にして、ここで大分外れてきて、そういうところでこういう人に 巡り合うっていうのは大きいですよね。
この作品もそうだけれど、美山さん自身が ね。
その意味では濃いですね。迎合の跡はどこにもない。」
冨谷
「前の”Circle Step”よりずっと濃くなってきたよね。美山度が濃いよね。」
安田
「100%自分だけで、ってのがね。」
美山
「そう。全曲書き下ろしだし。今回のためにレコーディングしながら書いたし。」
冨谷
「そもそも、今回どうして作っちゃったの?」
美山
「作んないわけに行かないって思ったんですよ、溜まってるから。
前回の作っていて 、一人多重の曲で、手ごたえを感じたし。あ、これかなって。」
前回の作っていて 、一人多重の曲で、手ごたえを感じたし。あ、これかなって。」
冨谷
「どんな手ごたえを感じた?」
美山
「これは絶対自分の中にあるものがまだあるから、
それを探ってもっと発展させて、 形にして、自分の中にあるものを完全に引き出さなきゃって思ったんですよ。
やら ないわけにいかないって。
その時点では曲は何も出来てなかったんですよ。でも大 きなコンセプトはあった。
向こうの方からやってくるものを探りたいってのがあっ た。
それを全部曲にしたんです。作りながらもどんどん出てきたんです。」
それを探ってもっと発展させて、 形にして、自分の中にあるものを完全に引き出さなきゃって思ったんですよ。
やら ないわけにいかないって。
その時点では曲は何も出来てなかったんですよ。でも大 きなコンセプトはあった。
向こうの方からやってくるものを探りたいってのがあっ た。
それを全部曲にしたんです。作りながらもどんどん出てきたんです。」
冨谷
「作らなきゃって、なにか満ちてきたってことだけれど、すぐに満ちてきちゃったの ?」
美山
「作りながらどんどん出てくるんですよ。
一つ作ってると、ああいうのも出来るな、
また作ってると、こういうのも出来るな、
こういうアプローチもしたいな、
とか次 々に溜まってるのがでてくるみたいな。
それを曲にするときにちょっとだけ頭使う ことはあったけど、大もとのアイディアは、どんどん出てきた。」
一つ作ってると、ああいうのも出来るな、
また作ってると、こういうのも出来るな、
こういうアプローチもしたいな、
とか次 々に溜まってるのがでてくるみたいな。
それを曲にするときにちょっとだけ頭使う ことはあったけど、大もとのアイディアは、どんどん出てきた。」
冨谷
「レコーディングしようと思ったときに、最初から安田さんというのが頭にあっての スタート?」
美山
「もちろん。安田さんがいなかったらできないですよ、これ。」
安田
「結局ね、ダイレクトに美山からレコーダーへってことなんですね。
間に、たとえば 、ジャズやってる人で、バックにたとえばドラムならフィリ-・ジョー・ジョーン ズだったり、
ピアノならマッコイ・タイナーだったりとか、そういうものを持った 人が入って来ない形ということなんですね。
で、まったく自分の声だけなんで、ホ ントにFace to FaceというかDoor to Doorというか、夾雑物が全然ないというのが やりたかったんじゃないかな。
僕は余計なことは全然。録音操作だけ。手順通りに 取るというだけのことで。
声にしても、EQは使わない、私は人間EQなんで、ということになると、ほとんどそのままやるということで。」
間に、たとえば 、ジャズやってる人で、バックにたとえばドラムならフィリ-・ジョー・ジョーン ズだったり、
ピアノならマッコイ・タイナーだったりとか、そういうものを持った 人が入って来ない形ということなんですね。
で、まったく自分の声だけなんで、ホ ントにFace to FaceというかDoor to Doorというか、夾雑物が全然ないというのが やりたかったんじゃないかな。
僕は余計なことは全然。録音操作だけ。手順通りに 取るというだけのことで。
声にしても、EQは使わない、私は人間EQなんで、ということになると、ほとんどそのままやるということで。」
美山
「だけど、音は自分の頭の中にあってもそれをちゃんと形にできる知識がないですか ら。
それを安田さんが、こういう手順でレコーディングしなきゃダメだとか、こう いうやり方があるよとか、こうやらないと弾いてくれないよとか、全部言ってもら ったおかげでできたんですよ。
言葉が足りないのも、全部すぐわかってもらえた。
要するにこういうことでしょ、みたいな。
それがなかったらできなかったですよ。 半年かけてレコーディングしたんですよ。
ホント恵まれてますよね。」
それを安田さんが、こういう手順でレコーディングしなきゃダメだとか、こう いうやり方があるよとか、こうやらないと弾いてくれないよとか、全部言ってもら ったおかげでできたんですよ。
言葉が足りないのも、全部すぐわかってもらえた。
要するにこういうことでしょ、みたいな。
それがなかったらできなかったですよ。 半年かけてレコーディングしたんですよ。
ホント恵まれてますよね。」
安田
「僕がクレジットされるとしたら、基本的には雑用ってことで。卑下してるんじゃな いですよ。」
美山
「あるいは通訳。翻訳。」
安田
「そういうことですね。」
美山
「こちらの意図をわかってくれる人じゃないと形になんないですよ。」
安田
「なかなかわかってくれる人は多くはないような気もします。」
美山
「多くじゃなくて、いないでしょ。」
冨谷「いないだろうと思うね。」
美山「日本人にはいないと思うし、外国人じゃ、『・・・的』みたいな曲はわからないじ ゃないですか。新内みたいなのはね。」
安田「チェロの人はよくやってくれましたよ。」
美山「首傾げながら、呆れかえりながらやってましたよね。」
冨谷「そのときにたとえば、三味線や琵琶をゲストで連れて来てみたいなことは思わなか ったの?」
美山「思わない。それじゃダメ。それじゃ普通。つまんないじゃないですか。そもそもひ とつの楽器だけでなるべくやりたかった。あんまり色んな人に入ってほしくなかっ た。」
安田「このCDは、僕にはちょっと霊的な感じも聴こえてくる。」
冨谷「広い意味では、スピリチュアルミュージックだよね。そういう風にしないとカテゴ ライズできないんだよね。」
安田「カテゴリーのことは根本的な問題で、これは深い問題で、これから音楽作って行く 人もね、みんな直面しなきゃいけない問題で。作り手だけじゃなくて、売り手も。 」
冨谷「日本だけじゃなくて、世界的にそうだと思うんですよ。それが本当の意味で解決で きたら、作曲家もそうだし、表現者もそうだし、作る人ってもっと自由になる。」
安田「そうだと思いますよ。」
冨谷「自由にやっていいんだから。そこの風穴を美山夏蓉子が開けたんだよ。」
安田「開けかかってるっていうかね。今こじあけてる最中ってかね。」
冨谷「アタシに着いておいで、みたいな。でもアタシの音楽は誰にも真似出来ないから、 みんな自分なりにジタバタしてください、みたいな。」
美山「そういえば以前某ジャズ評論家に、美山夏蓉子のうたは高踏的だって書かれたこと があるんですよ。もう、てやんでえ、って感じ。」
安田「高踏的なのはいいじゃないの。」
美山「偉そうだ、って言いたいらしい。別に高踏的にやってるわけじゃないのにさ。商売 上すごく迷惑な文章だった。」
安田「高踏的とは、僕も思いますけどね。」
美山「え?あははは。」
安田「いや、本当のところでは。このCDにしてもバカが作ったんじゃないわけよ。とにか くこれはそういう評論家みたいなのに立ち向かってますね。タイトルも素晴らしい し。」
美山「タイトルは安田さんが考えてくれたんだけど、このセンスはすごい。」
安田「美山さんと言えば、オビヤビヤ。思い出すセリフはオビヤビヤ。」
美山「このCDは一枚で一篇の映画、一冊の本、そういう風にしたかったのね。」
冨谷「じゃあ、ひとつの芝居なんだな。」
美山「そう、芝居。
頭の中にあったのは、セルバンテスの『ドン・キホーテ物語』なのね 。
あれ全部読むと、凄いですよ。
イカれたドン・キホーテがあちこち旅するわけだ けど、文学が持っているべきすべてがあそこにはあると思う。
言ってる内容は高踏 的なんですよ。
ただ、それをおバカな体裁で語っている。」
頭の中にあったのは、セルバンテスの『ドン・キホーテ物語』なのね 。
あれ全部読むと、凄いですよ。
イカれたドン・キホーテがあちこち旅するわけだ けど、文学が持っているべきすべてがあそこにはあると思う。
言ってる内容は高踏 的なんですよ。
ただ、それをおバカな体裁で語っている。」
安田「それは相当高踏的だよ。ほら、あなたの好きな志ん生だとか、そっちの感じですよね。」
美山「そう。大もとを見据えてないと書けない、そういう本なんですよ。
で、いっぱいエ ピソードが入ってるのね、劇中劇みたいなのが。
そういう雰囲気でやりたかった。 」
で、いっぱいエ ピソードが入ってるのね、劇中劇みたいなのが。
そういう雰囲気でやりたかった。 」
冨谷「それは高踏的だよ。」
美山「そういうつもりで作ったんですよ。そこに味付けするわけですよ、自分の中に小っ ちゃい時からため込んだ栄養分でもって。その中には志ん生もいる。新内なんかは 落語聴いてるから入ってくるし。」
安田「これは結構ある程度の水準行ってる人じゃないと、ホントには楽しめないね。」
美山「志ん生からいただいてるものがいっぱいある。」
冨谷「それは他の人にわかる部分?」
美山「わかんないでしょうね。
志ん生がそのまんま出てくるわけじゃないから。
落語はた った一人で、何百人という人を演ずるわけでしょ。
子供から年寄りまで、男も女も 。
このCDでは、何十人もの人が出てくるけれど、そういうところが志ん生からいた だいたもの。
表に出てるところは庶民目線だけれども、志ん生自身の目線は凄い高 いところにあるわけじゃない。
それをああいう形で出してるっていうのも凄く影響 されたところ。」
志ん生がそのまんま出てくるわけじゃないから。
落語はた った一人で、何百人という人を演ずるわけでしょ。
子供から年寄りまで、男も女も 。
このCDでは、何十人もの人が出てくるけれど、そういうところが志ん生からいた だいたもの。
表に出てるところは庶民目線だけれども、志ん生自身の目線は凄い高 いところにあるわけじゃない。
それをああいう形で出してるっていうのも凄く影響 されたところ。」
安田「なるほどね。その話今初めて聞いた。そういうルーツがあるのね。」
美山「そう。落語でやってることをうたでやったっていいじゃない、っていうことで。」
冨谷「じゃ動機のひとつはそれなんだ。」
美山「いや、動機のひとつにはならない。
方法論の一つ。私の中にそういうのあるんだか ら、どんどん使っちゃえばいいじゃないというかんじ。
ジャズもへったくれもなく て、やりたいと思ったんだから出せばいいじゃない、ってことで。
落語の中にはな んでもあるじゃない。
歌舞伎も常盤津も浪曲も。
自分の音楽の中でそれやっちゃい けないわけないじゃない。
たとえば、『レット・ミー・シング』って曲は私の好き なブルックナーの音楽が・・」
方法論の一つ。私の中にそういうのあるんだか ら、どんどん使っちゃえばいいじゃないというかんじ。
ジャズもへったくれもなく て、やりたいと思ったんだから出せばいいじゃない、ってことで。
落語の中にはな んでもあるじゃない。
歌舞伎も常盤津も浪曲も。
自分の音楽の中でそれやっちゃい けないわけないじゃない。
たとえば、『レット・ミー・シング』って曲は私の好き なブルックナーの音楽が・・」
安田「えっ!?どれが、えっ?」
美山「あははは、全然関係ないようなんですけど、ブルックナーの音楽を自分なりの捉え 方で、ぐっと下まで下ろしてきて使ったのね。」
冨谷「美山夏蓉子を通過すると、インプットとアウトプットがまるで違うものになると。 」
美山「なんでこうなんの、って思われるかもしれないけど、私の中では自然なわけ。」
冨谷「ブルックナーとくると、高踏的だよ。」
美山「どこがブルックナーよ、って言われれば説明するけどね。」
安田「このCDの音楽から一番遠い作曲家を上げろって言ったらブルックナーなような気が するよ、俺。」
冨谷「新内とか出てくるから志ん生ってのはまだ結びつきやすいけど、ブルックナーはね え。」
美山「実はそうなんですよ。ものすごい通過の仕方だよね。」
安田「高踏的かつ戦闘的なアルバムだね。」
冨谷「でも正しい影響の受け方かもしれないね。そのまんま食べたものが消化もされずに 出ちゃうんじゃなくて、消化して汗になって出ちゃった、みたいな。」
安田「なかなかこういう風には出ないでしょうね。じゃ、落語だクラシックだって、色ん なのがミックスチャーされて、意外な形で出たのがこれなのね。美山ワールドです ね。」
美山「そう。生まれてから何十年間に自分の中でいつの間にか貯め込んで来たものを、こ のたび出しました、みたいなね。」